文章の中に森や川そして音楽の存在を感じる本 高木啓吾
今回私が紹介したい本は
恩田陸著「蜜蜂と遠雷」
・あらすじ
舞台は3年ごとに開催される芳ケ江国際ピアノコンクール。
「ここを制した者は、世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝する」ジンクスがあり、このピアノコンクールに挑む男女4人の若き天才ピアニスト達。
家にピアノを持っていないにも関わらず、伝説的な音楽家ユウジ・フォン・ホフマンの推薦状付きでコンクールに出場してきた風間塵(16)
幼いころにピアニストとして華々しいデビューを飾っていたが恩師でもありマネージャーでもあった母の死をきっかけに音楽界から姿を消した元天才少女の栄伝亜夜(20)
妻子を持ち楽器店で働き年齢や練習時間にハンデはあるが、生活者の音楽の良さを伝えたいとい強い信念をもった高島明石(28)
名門音楽学校の生徒で完璧な技術と音楽性を持ち合わせながら、分析・戦略も得意としている今コンクールの優勝候補と注目されるマサル・カルロス・レヴィ・アナトール(19)
若き天才たちの交差点に生まれる友情・刺激・葛藤を描いた青春群像劇。
音楽の神様はだれに微笑むのか。
・受賞歴
第156回直木三十五賞
第14回本屋大賞
直木賞と本屋大賞をW受賞した初の作品で、本屋大賞を2回受賞したのも恩田陸さんが初めてだそうです。
・本の感想
この本は文章が2段になって508ページもあるのですが、内容がコンクールから一切ブレることなく、物語が進んでいきます。ただひたすらピアノコンクールに挑む4人のピアニストを描いているので、音楽に対し真剣に向き合う主人公たちに感情移入しやすく、内容が分かりやすいと感じました。
4人全員が主人公のように描かれていて、物語に入り込みやすく、今作の魅力の要因になっていると思います。
4人それぞれ違う考え方ではあるが、ピアノと音楽に対する強い思いを持っていて、ただまっすぐひたむきに自分の音楽を追求する姿は、音楽をテーマにした作品でありながら、スポーツ漫画のような熱い気持ちにさせてくれます。
また、この本は音楽に詳しくなくても十分に楽しむ事ができるのが魅力の一つだと思います。漫画の「ヒカルの碁」と同じように囲碁のルールを全く知らなくてもおもろく、内容を理解できるようになっていて、すらすらとページをめくることができます。
そして、この作品の最大の魅力は恩田陸さんの抜群の文章表現です。
このページのタイトルでもあるように文章の中に森や川、そして音楽を感じピアノを弾く演奏者の動作を行う姿や音をはっきりイメージさせられます。ピアノの曲を全く知らなくても、ものすごいものを見て、聴いているような感覚を味わうことができます。
その音楽描写を一部紹介させて頂きます。
マサルはバルトークを引くたびに、なぜかいつも森の匂い、草の気配を感じる。
複雑な緑のグラデーションを、
木の葉の先から滴る水の一粒一粒を感じる。
森を抜ける風。
風の行く手に、明るい斜面が開けていて、
そこに建てられたログハウス。
バルトークの音は、加工していない太い丸太のよう。
ニスを塗ったり、細工を施したりはしていないが、
木目そのものの美しさで見せる。
大自然の中のがっちりした建造物。
力強い木組み。素材そのものの音。
森のどこかで斧を打ち込む音が響く。
規則正しく、力強いリズム。
叩く。叩く。腹の底に、森の中に響く振動。
心臓の鼓動。太鼓のリズム。
生活の、感情の、交歓、リズム。
叩く、叩く、指のマットレスで、木を叩く。
叩き続けているうちに、トランス状態になる。
より力がこもり、打ち込む勢いがます。
いっしんに、無心に、まっしろになって、叩く。
最後の一撃に加え、短い残響を残して音は止む。
静寂。森のしじま。 本文335頁
曲を演奏しているピアニストの雰囲気が風のように伝わり、本を読む爽快感を初めて感じる事ができた一冊となりました。
ピアニスト達の動作やコンクール会場をはっきりと表現されているので、恩田陸さんがしっかりと綿密に取材されたのが伝わってきました。
・卒業研究に向けて
今回この「蜜蜂と遠雷」を読んで、何かを表現し、それを伝えるにはしっかりとした根拠が必要になると感じました。私は障害者をテーマに研究を進めていきたいと考えているので、しっかりとした準備をして研究に挑んでいきたいと思いました。
コメント